King's Ring

− 第12話 −




城に戻るとこの瞬間を待ち侘びていた城の面々が、涙を流しながらリョーマと手塚の周りに集まる。
「リョーマ様」
「ご無事で何よりです」
幼い頃からの世話役達は、零れる涙を拭かずにリョーマの手を握る。
「手塚様も本当にご無事で」
リョーマの中から手塚の記憶が消されていた事を知った後は、誰もが手塚の存在を黙っていた。
だが、『誰かが故意に記憶を消した』事だけは気が付いていた。
王の指輪であるリョーマの記憶を操作できるような力の持ち主に対抗できるほどの力を持つ者は、この城には存在いない。
誰かがリョーマの記憶を戻してくれると願っていたのに、そんな中、リョーマは城から連れ去られてしまった。
誰もが慌てふためき、多くの人手を使ってこの世界中を探したが、どこにもリョーマは見付からなかった。
最悪は『死』も考えていたが、リョーマが施した城の結界がそのままだったので、どこかで生きていると誰もが信じ続けていた。
「皆、ありがと。それと心配掛けてごめんなさい」
「いえ、我々はリョーマ様がご無事であればそれで良いのです…。リョーマ様、その指輪は?」
「…契約の指輪だよ。俺は光の王である国光と契約を結んだんだ」
手を上げて、指輪を周囲に見せる。
キラリと輝く銀色の指輪。
この城の者であれば、儀式の間の存在も指輪の存在も知っている。
実際に目にする事は無かったが、書物や伝承の中で全てを知り得る事が出来た。
「おお、それが契約の指輪」
ざわ、と騒がしくなる。
2人の指に嵌っている銀色の指輪はこの世界の秩序を護る為の象徴であり、2人を堅く結ぶ為の物。
揺るぎない繋がりを手に入れたと知り、誰もが喜んでいた。
「さぁ、他の王にも報告しなければならないな」
本来の世界に戻り、こうして指輪を手にしたのなら、残る王達に話をしなければならない。
「俺、全部の王と会うのって初めて」
不二は兎も角、残る4人は遠目から姿を見た事があるだけの人物や、話を聞くだけでどんな人物なのかもわからないのだ。
「ならば、リョーマの城に集結させよう」
6つの塔の中心にあるのがリョーマの城。
そこに全員を集合させてこれまでの経緯を話そうと手塚がリョーマに伝えれば、従うだけだとばかりに静かに頷くだけだった。


話は早い方が良いと、それから2時間後に全員をリョーマの城に集めた。
この世界の王が集結するのは初めてなので、城の周囲には強い結界が張られて、部外者は入り込めない。
「ほへ〜、ここが指輪の城か」
キョロキョロと辺りを見回すのは『風の王』の菊丸英二。
赤茶色の髪は毛先がクルンと跳ねていて、愛想の良い笑顔を振り撒いていた。
「ふむ、流石は指輪の城なだけに、神秘的な城だな」
黒ぶちの眼鏡を掛けて、興味深げに観察しているのは『闇の王』の乾貞治。
手には何かしらメモを取るようにノートがあり、話しながらも室内の様子を書いていた。
「指輪に会うのは初めてだよ。何か緊張して胃が痛くなるよ」

心なしかオロオロとしているのは『聖の王』の大石秀一郎。
「はは、大石らしいね。でも俺も緊張しているよ」
大石と同様に緊張しているのは『炎の王』の河村隆でした。
「…それにしても、不二」
「ん?何」
「ちょっと顔色悪いぞ。大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
数時間休んでいたお陰で歩けるほどに回復していたが、性質の異なる者に長い間支配されていたからか、どうにも身体の不調は消えなかった。
けれども、この集まりに不参加とはいかず、何とか体調を整えてここにやって来た。
不二を最後に、手塚を除く王達がリョーマに城にやって来た。
全員が通された場所は王の間や大広間ではなく、リョーマが食事を摂る部屋でした。
ところどころに花々が飾られていて、その色や香りに気持ちが安らぎます。
「手塚はいないんだ」
「時間厳守なのに珍しいな」
あと数分で伝達された時間になるのに、手塚だけがここに現れません。
子供の頃からそういった約束事に対して厳しかったのにと、不思議に思っていた直後に扉が開き、全員が扉に注目する。
「全員集まったようだな」
「手塚」
扉から入って来たのは手塚で、その横には小柄な少年が立っています。
少年にしては綺麗な顔立ちで見惚れてしまう。
「うわ〜、カワイイ、おチビちゃんだ」
ハートマークを飛ばしながらリョーマを見やる菊丸に、隣にいた大石は苦笑いを浮かべていた。

「もしかして、その子が?」
「ああ、王の指輪であるリョーマだ」
「初めまして、リョーマです」
ペコリと頭を下げると、全員は椅子から立ち上がり深々と頭を下げる。
「じゃ、まずは自己紹介」
と、菊丸が手を上げます。
「俺は風の王、菊丸英二。英二って呼んでくれよな」
まるで猫のように口角を上げて笑う。
「えっと、俺は聖の王の大石秀一郎だ。よろしくな」
「俺は闇の王、乾貞治」
「俺は炎の王の河村隆。いや〜、王の指輪
だからちょっと緊張していたけど、すごく普通な感じで安心したよ…不二は?」
「僕はリョーマ君とは面識があるからいいんだ」
「そうなんだ」
羨ましそうに不二をみる菊丸は唇を尖らせた。
こうして全員の紹介が終わると着席しますが、手塚だけは立ち上がったままです。
大石が「座らないのか」と訊ねると、手塚は軽く手を上げて至極真剣な表情で他の王の顔を見た。

「王の指輪であるリョーマは光の王である俺の指輪になった」
指輪が嵌っている手を上げて高らかに宣言しますが、初耳の王達は驚きを隠せません。
「ちょ、ちょっと待てよ。俺ら初めて会うんだぞ」
ガタッと音を立てて菊丸は席を立ちました。
「英二、落ち着きなよ」
「不二はなんで落ち着いてるんだ。指輪と俺らの関係は全員が平等だろ」
「…手塚はリョーマ君の教育係でもあったからね。僕はそのお陰でリョーマ君と何度も会っていたんだよ」
「…それは聞き捨てならないが、全ては過去の話だな」
深々と座ったままの乾は、諦めたように息を吐きました。
他の王に会いに行くのは自由でしたが、指輪に会う為にこの城に入るのは数々の書類を提出しなければならなかったので、面倒だからとわざわざ会いに行く事はありませんでした。
知らない間に手塚が教育係に選ばれ、この中の誰よりも手塚の城に良く顔を出していた不二がリョーマに出会う確率は他の王より高いはずです。
そして、子供の頃からこうした繋がりがある手塚と結ばれるのは、致し方のない事。
「俺は手塚が指輪を手に入れられて良かったと思っているよ」
「タカさんの言うとおりだ。指輪を手にするのは俺達の中で手塚が最も相応しいからな」
河村と大石はこの話に不平不満など感じていなかった。
それは、手塚が指輪を手にするに最も適任だからと感いていたから。
それが当たり前だと気が付いていたから。
乾は特に気にしていなかったらしく、手塚なら問題ないなとノートに書き込むだけでした。
「ありがとう、河村、大石」
「…チェッ、何か損した感じだにゃ〜」
ここで何時までも文句を言い続けていても埒が明かないと、菊丸も渋々受け入れる。
それに今更何を言っても、2人が契約を交わしてしまった以上、王の地位にいたとしてもどうする事もできない。

とりあえずは一件落着したが未だに残っている問題があり、その問題を話すべく今度は不二は口を開く。
「僕からも話があるんだけど、いいかな」
「不二が?珍しいなぁ」
不二は静かにこれまでの経緯を話し始めた。
重大な事件が起きた事を知らずに過ごしていた王達は、3人の身に起きた出来事に顔色を変えながら聞いていました。




久しぶりすぎてどんな話か忘れていました。